「トモちゃん、キレイだよね。ほらほら、また上がったよ」
そういって、幼ななじみのヨッちゃんが智子さんに声をかけてきました。
屋台の焼きそばを口いっぱいに頬張って夜空を見上げるヨッちゃんを横目に、智子さんは軽くうなずきます。
地元の夏祭りに、大学3年生の智子さんは、近所に住む同い年の好子さんに誘われてやってきました。
その日、地元の主催で恋活の集いをやっていました。
智子さんは、ヨッちゃんに誘われ参加したのですが、あまり気が乗りません。
その集団から、少し離れた所でベンチに座り、夜空に浮かぶ花火をぼんやり眺めていました。
「まだ、達也くんのことが忘れられないんだ」
そういって、ヨッちゃんが智子さんの隣に座りました。
空には、赤や緑、オレンジの色とりどりの花火の飛沫が四方に飛び散っています。
1カ月ほど前のことです。
智子さんは、1年ほど前から付き合っていた同い年の達也くんから、突然別れを告げられました。
思いもよらなかったことで、どうしてと聞いても、達也くんは口ごもったままで、何も答えてくれません。
智子さんは、少しばかり考え過ぎて気を病むところがありました。
なぜなの。私の何がいけなかったの。
それとも、他に好きな人ができたの。
悩み落ち込む日々が続きました。食欲もわかず、見る影もないほどげっそりと痩せ細っていきました。
隣でヨッちゃんは、たこ焼きを食べながら、花火が打ちあがるたびにはしゃいでいます。
< まったく、ヨッちゃんには悩みというものがないのかしら >そう思いながら、智子さんはヨッちゃんのたこ焼きを一つつまんで頬張ります。
そういえば、あった、あった。1年前にヨッちゃんがフラれたと泣きじゃくりながら電話してきたことを、智子さんは思い出しました。
その時、5時間くらいケータイで失恋話しを聞かされ、耳元が痛くなったのを覚えています。
ヨッちゃんは、高校時代から憧れていたA君に付き合ってください、と告白したのですが、A君から、僕は痩せている子がタイプだからとあっさり断られてしまいました。
その時は、泣き明かすヨッちゃんを、まさに智子さんが励ます役回りでした。
それからヨッちゃんはダイエットに懸命に励みましたが、やはり食い意地が張っているせいか、何度やってもリバウンドしてうまくいきません。
それで、< もうこうなったら無理に痩せなくても、素のままの私を好きになってくれる人を探そう >と、ヨッちゃんは心に決め、いろいろな恋活イベントに参加するようになったのです。
そんなヨッちゃんの、まるで道場破りにでも行くかのような恋活パーティ巡りの話をよく聞かされたものですが、その時は達也くんと付き合っていたので、自分には縁のないものと、智子さんは思っていました。
それでも、傍でヨッちゃんを見ていると、恋活巡りの甲斐があってか、どこか男性を見る目も長けたかのように思えます。
1年前の泣き崩れていたヨッちゃんの姿が、智子さんにはちょうど今の自分にダブってみえました。
見上げると、打ち上げられた小さな光の塊が、色鮮やかに開花し、四方八方にはじけ飛んでは、跡形もなく消えていきいます。
なんか、花火って、人の一生に似てる・・・ふと、智子さんは思いました。
その時、智子さんの肩ごしにヨッちゃんが小さく声をかけました。
「何度でも咲くんだよ。花火みたく。散ってもまた咲くんだよ」