「きらきらら」になるところだった ☆彡
ひかるさんは七夕の日に生まれました。
お父さんとお母さんはひかるさんがお腹にいる時から、どんな名前にしようかとよくもめました。
ちょうど七夕の日が出産予定日でしたから、お父さんは光輝くお星様のような子になって欲しい、女の子だったら「きらら」はどうかと提案しました。しかし、お母さんはそれに断固反対しました。
なにしろ、性が「吉良」です。担任の先生から呼ばれた時、「きらきららちゃ~ん」となります。それだと、クラス中の笑い物になるし、男子にいじめられかねないと心配したのです。
「いいじゃないか、それでもかわいくて」とお父さんは生まれる前から親バカぶりを発揮しますが、「や~い、キラキラちゃん」て、男の子からからかわれるにきまってるとお母さんも譲りません。
実は、お母さんは、中山郁代、という名前でしたから、「山ん中、いくよ~」と子供の頃、男子からはやしたてられ、ずいぶんイヤな思いをしたことがあったのです。
「やっぱり、きららしかないと思うんだけど」そう言い張って聞かないお父さんをお母さんは3日3晩かけて説得しました。そしてなんとか、男でも女でもどちらでもいいように「ひかる」という名前にしようということで落ち着きました。
そして、誕生したのは、やはりお父さんが予想した通りの可愛らしい☆彡のような女の子でした。
お母さんが、お父さんを説き伏せたおかげで、ひかるさんは小学校で男子に名前でいじめられることもなく、むしろ逆に、男子をいじめるほどの元気闊達な女の子に育ちました。
ひかるさんがいじめて泣かせた男の子の家に、お父さんが菓子折りを持って謝りにいかなければならないこともたびたびでした。
この子は、大きくなったら、とても手のつけられない子になるんじゃないか。中学にいったら女番長のようになって、学校を荒すんじゃないか。< やっぱり、きららのほうが良かったんじゃないかな >と、お父さんはわけのわからない理由づけをして、自分を無理に納得させようとします。
そんな、元気少女のひかるさんでしたが、お父さんの予想に反して中学に入った頃から、身長があまり伸びなくなってしまいます。
顔もソバカスいっぱいで、お世辞にも、目鼻だちが整っているとはいいがたく、どちらかというと不細工な部類です。
想像をしてみてください。ソバカス顔の目がくりっとしたちっちゃな女の子を。かわいいといえばまあかわいいかも知れませんが、男子が競って奪い合うという存在でもありません。
かといって、とりわけいじめの対象になるわけでも、お父さんが心配するような手のつけられないヤンキーになるわけでもなく、ひかるさんは無難に中学時代を過ごしました。
大学に進むと、ひかるさんは天文学部に入りました。
子供の頃から、お父さんから七夕のオリヒメとヒコボシの話をよく聞かされていて、神秘的な宇宙にとても惹かれていました。
「ひかる、みてごらん。あれがオリヒメの星のベガで、こっちがヒコボシの星のアルタイ。オリヒメとヒコボシはね、ひかるが生まれた七夕の日に、年に1度だけ合うんだよ。好き合った仲だったんだけどね、神様に分かれさせられてね」
「どうして・・・」
「さあ、どうしてかな~、あんまり好きだったから、うれしくて仕事するの忘れたんだね」
「へえ~、私も好きな人に出会えるかな~」
「そうだね~、七夕の日に出会えるかもしれないね」
そんな、お父さんとの会話を思い出しては、ひかるさんは、よく望遠鏡を覗いたものです。
七夕の日の恋活イベント ☆彡
「ひかるちゃん、七夕の日に恋活イベントがあるんだけど、一緒にいかない」
大学のキャンパスを歩いている時、友人の雅美さんからポンと肩を叩かれました。
「え、七夕に」ひかるさんは、オリヒメとヒコボシの話をすぐに思い浮かべました。
「どこで」
「それがさあ~。ちょっと人里離れた山奥で、まあ空気が澄んでて星もキレイに見えるらしいんだけどね」
「へえ~、ロマンチック~、七夕の日に運命の人と出会えるってことね」
「でもね、条件があってね。一人旅で、そこまでいかなきゃダメなんだって。だから、ひかるちゃんとは別々で現地で合流ってことになるんだけどね」
「なんで、一人旅なの」
「一人でね、どんな人と巡り合いたいかとか、自分がこれまでやってきたこととかよく考えながら、来て欲しいっていうのね」
「それって、ヒコボシとオリヒメの話にかけてるのかな~。いろんなことをしっかり反省したら、また運命の人と出会えるってこと」
「そんな、感じね」
「でも、楽しそうね、やってみよっか」
ひかるさんは雅美さんと意気投合して、さっそく七夕の日に行われる恋活イベントについて調べました。幸い、その頃は、大学は夏休みに入っています。
恋活イベントが開催される場所をグーグルアースで調べると、確かに、ペンションらしき建物が数件見える程度で、周囲は深い緑の山々です。どうもそのペンションの一角で、日本全国から男女が集まり、恋活イベントが開催されるらしいのです。
確かに、ネットにもその情報サイトが出ていました。七夕の日、全国からオリヒメとヒコボシが集うと銘打ったサイトタイトルです。
< 七夕の日に天の川を渡って1年に1度好きな人と再会か~。もしかしたら運命の人に出会えるかも >ひかるさんは、授業中もそんなことばかり考えていました。ノートに理想の男子像を描いたりして、教授の話もうわの空です。
でも心配なのは、ソバカス顔の目のクリっとしたちっこい女子を誰か好きになってくれるだろうかということです。大学3年生のひかるさんはこれまで一度も男性と付き合った経験がありません。
部屋で一人、鏡を見ながら、どうしたらこの顔が、スカーレット・ヨハンソンのようなキュートな顔立ちになるかな、ソバカスは化粧でなんとか隠せるかも、くりっとした目はかわいいといってくれる人もいるからマスカラでもうちょっと強調しようかな、と鏡に映る自分の顔をジッとみつめてはため息の日々です。
雅美さんはそこそこの美形で、さほど修正をかけなくてもいける顔です。スタイルだって悪くありません。現地で、雅美さんは男子にモテモテかも知れないとひかるさんは余計なことに頭を巡らします。
< やだな~。雅美ちゃんと張り合うの。絶対、負けるわ >と、どうも憂鬱です。
ともかく、恋活イベントまで1カ月を切っています。性格はまあ、雅美ちゃんより、私のほうがいいんだからと、後は顔と体の修正ポイントに磨きをかければ、なんとかなるかな、とひかるさんは腹を決めます。
ひかるさんは恋活イベントまでの日割りスケジュールを作り、1カ月で3キロ減量の目標を掲げました。食事のカロリーを落とし、寝る前は絶対間食をしないことと決めました。
恋活イベントには電車とバスを乗り継いで行きます。現地に辿り着くまでに、2日はかかります。途中どこかで1泊しなければいけません。
そんな話も、雅美さんとカフェでいろいろと話をしたのですが、ともかく、イベントには一人で旅をしながら、参加するというのが条件なので、原則、雅美さんとは宿も別々ということになります。
スマホで連絡をとりながらの、心細い旅になりますが、それも主催者になにかの意図があってのこと。ひかるさんは、雅美さんとは別々のルート、交通手段で、現地まで辿り着くということになります。
「どうして、こんな条件をつけたのかしらね。できれば雅美ちゃんとワイワイやりながら現地までいきたかったのにね」とひかるさんはコーヒーに口をつけます。
「これまでのことを振り返って、いろんなこと考えながら、現地まで来て欲しいってことね。七夕の運命の人との出会いだからさ。真剣に自分とも向き合いなさいってことかな」雅美さんはそれでも、この恋活イベントで理想の彼氏とめぐりあえるかもと、少し浮かれ気分です。
雅美さんは、途中どこかに寄ってのんびり行こうかなと、3日間の行程スケジュールを組みました。ひかるさんは、電車とバスを乗り継いでの2日間で組みました。
「んじゃ、行ってくるよ。ひかるちゃんも時々メールいれてね」恋活イベントへの旅立ちの日、雅美さんからひかるさんのスマホにメールが入りました。
ひかるさんは、「ヒコボシの彼氏ゲットだよ。途中メールする」と返信します。
出発の前夜、ひかるさんは、熊よけの鈴をリックに付けたり、蜂に狙われないように、黒い物は身につけないようにしようとか、準備に余念がありません。蚊除けのスプレー、日よけの帽子、それから日焼け止めクリームをリュックに押し込みます。
そしていよいよ、ひかるさんのヒコボシとの出会い旅の出発の日です。
空は、雲一つなく、快晴です。おばあちゃんが玄関先で「ひかるちゃん、気をつけて行ってくるのよ」と見送ってくれました。
ひかるさんは軽く笑みで返すと、赤いリュックを背負い、白のキャリーケースを引きながらバス停へと向かいました。
自分探しの旅 ☆彡
2日かけて、現地に向かいますが、1日目は電車に4時間ほど乗り、着いた所でビジネスホテルに1泊します。
2日目も電車に3時間ほど乗り、その後バスと徒歩で、現地へと向かいます。集合場所では、夜の7時くらいから満天の星を眺めながらの恋活イベントが行われます。
当日は、全国から男女100人ほどが集まるとホームページには記載されています。これまでに2回開催されており、男女が楽し気に語らう風景やアトラクションが写真で紹介されていました。
スマホでそんなサイトをみながら、< 自分探しの旅かな~ >と、ふとひかるさんは思いました。これまでの人生の中で出会った人々のことをひかるさんは思い浮かべます。
太っちょのテディは日本から来たミラクルガールだってちっこい私をなにかと可愛がってくれた。でも、どう考えてもテディは私のヒコボシ様じゃないな。マリッサは今頃どうしてるだろう。ハンサムボーイのキースに好きだってちゃんと告白しただろうか。高校時代、アメリカで過ごしたひかるさんの楽しかった日々がよみがえります。
帰国子女として、日本に帰ってから大学に入り、天文学部の仲間たちと出会った。ちっこいソバカスガールをみんなが歓迎してくれた。1日中、仲間たちと星の話で盛り上がった楽しい思い出の数々。
ひかるさんはバスから電車に乗り換え、ジュースで口を少し潤したところで、一足先に現地に向かった雅美さんに「どう調子は」とメールしてみました。
10分ほどして、雅美さんから「たまにこういう一人旅もいいかもね。ちょっと感傷的になっちゃうけどいろんなこと考えたよ。お母さんとケンカして家出しそうになったこととか。私はどっちかというと途中下車で食べ歩きの旅だわ。まあ1日余分にあるから、のんびりいくわ。ひかるちゃん、旅の途中でへんな男にひっかからないでね。現地でちゃんとヒコボシ様を見つけるんだからね」と返信メールが来ました。
ひかるさんはそのメールに「私は元気で~す。雅美ちゃんも食べ過ぎて太らないように。なんかあったらまたメールするね」と返しました。
7月6日:思わぬ災難が ☆彡
4時間ほどの電車の旅を終えると、着いた所でひかるさんは、お昼ごはんを食べようと思いました。駅近くの食堂でお腹を満たすと、けだるさが全身に広がったものの、心はふたたび弾みを取り戻しました。
見上げると、空は光沢のある青色でひかるさんの一人旅を祝福してくれているかのようです。駅前の公園のベンチに座り、少し休憩をとろうと思いました。どんな人達が集まってくるんだろう。理想の彼氏にめぐりあえるかしら。
そんなことをぼんやりと考えていると、睡魔が急に襲ってきました。10分ほどベンチでうとうとしていたでしょうか。周囲で遊ぶ子供たちの声のざわめきに、ひかるさんはハッとめざめると、ベンチから立ち上がりました。
と、その時、わき腹のあたりに鈍い刺すような痛みを感じました。長時間の電車の旅で、腰にきたのかも知れません。早くホテルに行って横になろうと思いました。
お腹のあたりに鈍痛を感じながら、ひかるさんは、10分ほど先にある予約していたビジネスホテルへと足早に歩きました。
ホテルにチェックインして部屋に入ると、お腹のあたりに違和感を覚えながら、服も着替えずそのまま横になりました。< 明日は大事なイベント、ともかく体を休めなきゃ >遠のく意識の中で、日本中から集まった若者たちのざわめきが聞こえてきたような気がしました。
夜中の2時くらいでしょうか。あまりのお腹の痛みに、ひかるさんは目が覚めてしました。汗びっしょりで、頭もクラクラして、トイレに行くのも一苦労です。< もしかしたら、お昼に食べた物があたったのかもしれない >思い当たるのはそのあたりです。
リュックから、スマホを取り出し、雅美さんからのメールをチェックしてみました。
「ひかるちゃん、どうしたの、何かあった。電話しようかと思ったんだけど」と雅美さんからの同じようなメールが数本届いていました。
「ちょっと、お腹をこわしたみたい。でも、大丈夫、明日のイベントには間に合うと思うから」
そう書いて返信はしたものの、まだ刺すようなお腹の痛みは続いています。頭もフラついています。
すると5分も経たないうちに雅美さんから今度は電話がかかってきました。
「ひかるちゃん、だいじょうぶ、お腹こわしたの」心配げに雅美さんが聞いてきました。
「うん、ちょっとね。お昼のごはんがあたったかも」
「無理しないでね。明日の6時に集合だけど。それまでに、なんとか治るといいね」
「たぶん、大丈夫だと思う」ひかるさんは、気丈に答えました。
7月7日:はたしてヒコボシ様は ☆彡
真夜中の雅美さんとの電話のやり取りで眠りが浅くなったようです。
ひかるさんは、チェックアウトぎりぎりまでベッドに横たわっていました。頭の痛みはなんとか引いたようですが、お腹の痛みはまだ少し残っています。食欲も当然ありません。
< 最悪な旅になってしまった。何か悪いことでも起きなければいいけど >そんなことがふと頭をよぎりました。まだ何かこの後起こりそうな予感がしました。
ひかるさんはホテルのチェクアウトを済ませると、電車の時刻を気にしながら駅に急いで向かいました。電車に3時間ほど乗り、そこからしばらく徒歩が続き、バスに乗り、そしてまた徒歩で現地へ、という行程です。
たかが、恋活イベントになんでこんな辛い思いをしなきゃいけないんだろう。来なきゃよかった。何度も、そんなことが頭をかすめます。といっても、ここまで来たからには、もう後に引き返すこともできません。
お腹のクスリを飲んだこともあってか、少し腹痛も引いたような気がしました。ひかるさんは雅美さんからのメールを確認してみました。
すると、雅美さんから「現地に着いたよ。空気が澄んでて、とてもいいとこ。きっとキレイなお星様だよ」とメールがきていました。「そうだね、楽しみだね。私ももうすぐだから」とひかるさんもメールを返します。
電車は山間をぬうようにして斜面を登っています。3時間の電車の旅を終え、駅に降り立ったひかるさんは、辺り一面の光景に驚きました。日の光を浴びた緑のキャベツ畑が目の前に広がっています。
駅の回りには数件の民家があるだけで、広く、まだ舗装されていない道が遠く一直線に伸びています。いつかどこかでみたような風景です。なんだろう、これ。とても不思議な感覚でした。歩きながら、ひかるさんは、ふと思いました。
< 天の川、これひょっとしてそうなの >天体望遠鏡でいつも見ていた夜空に広がる天の川が地面に投影されているような、そんな感じがしました。ゆっくり大地を踏みしめるようにひかるさんはキャリーケースをゴロゴロさせながら歩を進めました。
まだ、お腹が本調子ではありません。日の照射も強く、ときおりめまいを覚えます。ミネラルウォーターを一口飲んで渇きを潤し、ここが最後の難関だと、歯をくいしばります。
なんのためにこんなことやってるんだろう、と後悔の念が湧いてきます。遊び半分のつもりだったのに、こんな苦痛を味わう旅になるとは、想像もしていなかったことでした。
< この広い天の川を渡ったその先に・・・ >そんなことを思いながら歩いていた時、ひかるさんは急に辺りの風景が大きくゆがむのを感じました。目の前が真っ暗になり体から力が抜けていきました。ひかるさんは、その場にへたり込み、そのまま意識を失ってしまいました。
ひかるさんは、小さい頃、お父さんやお母さんと遊んでいる夢を見ていました。お父さんと一緒に天体望遠鏡を見ながら、星を見ています。ひかるちゃん、起きなさい。学校に遅れるわよ。お母さんの声が遠くで聞こえたような気がしました。その声で、ひかるさんは意識を取り戻しました。
目覚めると、回りは白一色の世界です。何か薬品の臭いが鼻につきます。< 病院、なぜ、私はこんなところにいるの >ベッドの上でスマホやキャーリーバックはどこ、と目を這わせます。
と、その時、ドアを開け、顔をのぞかせた青年がいました。農場で働いているような作業着を着たひかるさんと同じくらいの年の若者です。
若者は、ひかるさんのスマホを手にしていました。
「すみません。お友達から電話があって、まだ安静にしていたほうがいいっていっておきました」そういいながら若者はひかるさんにスマホを手渡しました。
スマホを見ると、ちょうど7時をさしています。恋活イベントの始まる時刻です。
「道端であなたが倒れていて、それで救急車を呼んでここまで運んでもらいました」
ひかるさんは若者の言葉より、恋活イベントのほうに頭がいっていました。
「あ、そうなんですか。ありがとうございました」
< ここまで苦労したのは何のためだったの。イベントに参加できなかったなんて >ひかるさんは、若者に頭を下げてお礼をいったものの、何か釈然としない思いで、胸がさけそうでした。
若者は素朴な感じで、印象はそう悪くはありません。ひかるさんは、スマホで雅美さんに電話しようと思いましたが、会場内ではたぶんケータイの電源を切るように促されているはず、ということに気がつきました。
がっくりうなだれていると、
「あの、どうかなさいましたか」と若者が聞いてきました。
「いえ、あの、ほんとにすみませんでした。ありがとうございました」ひかるさんはそう答えるのが精いっぱいでした。
ふと、ひかるさんが窓に目をやると、病院の中庭に、暗がりの中、人々が小さな明かりを灯して集まっているのが見えました。
「あの方たちはなにをされているんですか」
「ええ、今日は七夕ですから。みなさんで星空を眺めていらっしゃるようです。体の具合がよければ一緒に見にいきませんか」
ひかるさんは、若者の言葉に軽くうなずき、外へ出てみました。中庭では、小さなテーブルが数客置かれ、患者さんたちが星々を眺めていました。
なんとなくこれも、いつかどこかで見たような風景です。そういえば、お父さんとお母さんが知り合ったのも病院だとかいってた。ひかるさんはおばあちゃんがそんなことをいっていたのを思い出しました。
ひかるさんのお父さんとお母さんは、ひかるさんがアメリカの高校に留学していた時に飛行機事故で亡くなりました。二人でひかるさんのいるネバダ州の高校へ向う途中、飛行機が乱気流にのみ込まれ、墜落したのです。
お父さんは有名な建築家で、お母さんも少しは名を知られた陶芸家でした。二人は、病院で診察を受けていた時に親しくなって結婚したと、おばあちゃんから聞かされていました。
ひかるさんも自身の名前の由来を聞いて知っていました。お父さんがどうしても「きらら」にしたかったと。とても奇想天外な名前ですが、奇抜な発想をするお父さんならいかにも考えそうな名前です。
今頃、二人は、ヒコボシとオリヒメとなって再会してるんだろうな。ひかるさんは夜空に広がる天の川をうっとりと見入りました。
そういえば、若者の面影がどこかお父さんに似ている。そんなふうにひかるさんは思いました。
スマホをみると、雅美さんからのメールが届いていました。
「だいじょうぶ。ひかるちゃん。残念だったね。イベント主催者からの言葉を送るね」
日本中から一人旅をしながらお集りいただきありがとうございました。みなさんの心のヒコボシやオリヒメと出会うことができましたでしょうか。
もし、今日、出会えなかったとしても、もしかしたら過去にあなたが出会った人が、そうだったかも知れません。そのための、人生を振り返る一人旅でもありました。
そして、今もしかしたらあなたのすぐ傍に、ヒコボシやオリヒメがいるかもしれません。どうか、そのことに気づいてください。