5. 恋活大作戦、オトコ狩り結社
カフェでの回転寿司風トーク恋活イベントを終えた、真子さんとマナミさん。
カフェを出た後、二人で反省会と称して大学の近くのあんみつ屋にこもり、極上あんみつを食べながら、今後の恋活戦略を練りました。
「マナミ、あんた、あの爽やか体育系の電話番号聞いたの」と真子さん。
「いや~、先輩、そんな気は全然なかったんですけどね。むこうがどうしてもっていうから、仕方なく聞くだけ聞いときました」そういう、マナミさんを真子さんはしばらくジッと見つめます。
「シラサワさんが、相性合うからっていうんで」真子さんの凝視に、不穏なものを感じたマナミさんは、シラサワを引き合いに出し、ほこ先をかわそうとします。
「シラサワマリ・・・人生最大の強敵だわ」と嘆息をもらす真子さんに、<いやいや、ぜんぜん、全くもって相手にもならないでしょう>とマナミさんは内心ほくそ笑みます。
「ともかく、作戦的にはシラサワを抱き込んだほうがいいわね」と真子さん。
「なに、なにか、やるんですか」また何かよからぬことを考えているにちがいない、とマナミさんは真子さんに聞きます。
「やっぱ味方につけて、シラサワのサイキックを利用したほうがいいかもね」真子さんは不敵な笑みを浮かべます。
「それじゃ、これから本題ね。次の恋活イベントなんだけど」
「え~、先輩、まだやるんですか。私もういいですよ。相手見つかったし」
「バカね、あんたは。どうせまたフラれるにきまってるんだから控えの男子もいるでしょ」
「さすが、先輩。世慣れているというか、熊と戦っただけのことはありますね」その話はワンゲル部の伝説となっていました。
「あのね~、熊とまともに戦って勝てるわけないでしょ。添い寝してあげただけよ」
「ひえ~、熊の横で寝たんですか」
< こいつはホントにルーピーだわ、喰われるだろ、そんなことしたら >という目で真子さんはマジマジとマナミさんを見つめます。
「ま、そんなことはどうでもいいからさ。次の恋活、次のイベント」
「この際、シラサワさんも誘って、男の見定めをやるというのはどうですか。どうせ、私と先輩じゃ男の良し悪しなんて皆目分かんないんだし」
「それそれ、100年に1回くらい、あんたも良いこというわね。それを考えていたのよ、私も。それじゃあ、シラサワを誘って次のイベントに行くとすっか。シラサワ、シラサワ、え~と、どこだっけ」真子さんはスマホにいれたシラサワの電話番号を探します。
「あんたと二人じゃ、心もとないしね、シラサワがいれば安心だわ」と真子さん。
満足げな顔であんみつのお代わりを頼みます。
あんみつを飲み込むようにペロリと平らげると、おもむろに真子さんはシラサワに電話をします。
「あ、シラワサさん、いらっしゃいました。熊坂でございます。ハンドルーネームの、ええ。今日はホントにお疲れ様でした。イベントのほうはいかがでしたでしょうか」
< イベント会社の回し者かよ。なんだ、その猫なで声は >とマナミさんはあきれます。
「え、わたしですか。ええ、まあ、先ほどすっかり気のあった男性とまたお会いしましょうといって別れたところです」
< ウソだろ、それ。ずっと私と一緒だったし。シラサワに、すでに見抜かれてるぞ。相手はものほんのサイキッカーだぞ >とマナミさん。
「ええ、今度また3人でいかがですか。恋活イベントにシラサワさんがいると心強いですし」
< オトコをとられるリスクもけっこう高いんだけどね >とマナミさん。
「あ、そうですか。いきますか。ありがとうございます。ところで、今日のイベントの参加者で私にピッタリの殿方はいらしたでしょうか」
< 殿方、BBAくせ~ >とマナミさん。
「え、いない。ひとりも。そうでございますか。そうなるとやっぱり次回になおさら期待ということでございますね。次回はガツンとやってやります。詳しい日程が決まりましたらまたご連絡いたします」
そういって、真子さんは電話を切るや、スマホをテーブルに放り投げるようにして、
「ケッ、誰ひとり合うやつはいね~と、なんて奴だあいつは」と憤りをあらわにします。
マナミさんは腹をかかげて笑いそうになりましたが、グッと押し殺し、
「先輩、オトコなんてそんなもんですよ。最近のオトコどもは、良いオンナを嗅ぎ分ける臭覚がないというか、全くもうどうしようもない」
それを聞いて真子さんは< お前の腹の中は全てお見通しだ >とでもいうような目でジッとマナミさんを見つめます。
「ともかく、シラサワはこっちに引き込んだから、問題はこれからどうやって男を狩るかだ」
男狩りに目をランランとさせた女闘士は極上あんみつをもう一杯とおかわりします。
それから、1週間ほどしてマナミさんのスマホに真子さんから電話がかかってきます。
「マナミちゃん、決まったわよ」
「なにがですか」
「なにがってあんた、オトコ狩りの結社のネーミングよ。男狩り隊ってどうよ」
「先輩、まんまじゃないですか。もしかして私もメンバーってことですか」
「当たり前でしょ。あんたと私とシラワサで、あとは適当にメンバー集まったら、入会金をごっそり取るとか」
「それって、ビジネスですか、けっこうアコギですね」
「恋活で良いオトコを探すだけじゃ面白くないから、女を泣かせるオトコをとっちめてやるとかね、けっこうやることあんのよ」
「先輩、私たち学生なんですから、もう少し、学業に専念しましょうよ。親が聞いたら泣きますよ」
「もう泣いてるよ。お前を生んだのが間違いだったって。今度、シラサワ呼んで、ミーティングやるからね。あんたも空けといてね」
有無もいわさぬ風圧が電話口から伝わってきます。
< 男狩り隊って、またベタな、ダサいし、真子先輩らしいわ >と、マナミさんは立ちくらみを覚えます。
マナミさんは、先日の恋活カフェで知り合った爽やかヒゲ多少濃い男子にはまだ、連絡もとらずそのままにしていました。やはり、こういう場合は男性のほうからのアプローチを待っていたほうがいいのかな、と思いました。
しかし、あのカフェでの恋活イベントから、1週間経ちますが、待てど暮らせど、あのヒゲがちょい濃かったかもしない爽やか男子からは、いっこうに何の連絡もありません。
「バカね、どうせまたフラれるにきまってるんだから控えの男子もいるでしょ」といっていた真子先輩の言葉がマナミさんの耳の奥でこだまします。
やっぱり、男狩り隊のメンバーに入って、恋活をやるべきなのか。そもそも真子先輩の恋活イベントにちょっと付き合う程度のことだったのですが、案外恋活も面白いかなとマナミさんも思い始めていました。
大学とはまた違う人々との出会いがそこにはあります。たい焼きをいかに日本の食文化に根付かせたらいいかということを初対面の人にも滔々と語ることができます。
マナミさんは、実は業務用のたい焼き器を買って、実家に置いています。休みの日には、実際にたい焼きを作り、嫌がる妹に無理やり食べさせ、あんことミックス粉の配分比や生地の焼き加減の研究に余念がありません。
父親はそれを横目に、いつ自分が妹の代わりをさせられるかと戦々恐々としています。母親は、マナミさんが結婚して旦那が失業した時、たい焼きを売って家計を助けることができるかも知れないと、たい焼き作りに精を出す娘の姿を虚ろに見ているだけで、とくになにか口出しするというわけでもありません。
マナミさんは、高校時代に付き合っていた同級生のみつる君と学校帰りによくたい焼きを買って食べたものでした。「美味しいね」とほほ笑むみつる君に、「私、将来たい焼き屋さんになろうかな」とマナミさんは口の回りをあんこだらけにしながら答えたものです。
みつる君とは、卒業後離れ離れになって、そのまま交際も途切れてしまいましたが、たい焼きを口にするたびに、みつる君との楽しかった日々がよみがえり、心がなごみました。
実は、先日の恋活イベントで出会った、ヒゲ多少濃いかも知れない爽やか体育系連絡がない男子はみつる君にどこか似ていました。
マナミさんは、おねえちゃん、もう食えね~と泣きを入れる妹を横目に、お父さんもどう、とたい焼きを勧めながら、真子先輩と男狩り隊をやってみようかとぼんやり考えていました。
6. 男狩り隊始動の前夜
カフェを出た後、二人で反省会と称して大学の近くのあんみつ屋にこもり、極上あんみつを食べながら、今後の恋活戦略を練りました。
「マナミ、あんた、あの爽やか体育系の電話番号聞いたの」と真子さん。
「いや~、先輩、そんな気は全然なかったんですけどね。むこうがどうしてもっていうから、仕方なく聞くだけ聞いときました」そういう、マナミさんを真子さんはしばらくジッと見つめます。
「シラサワさんが、相性合うからっていうんで」真子さんの凝視に、不穏なものを感じたマナミさんは、シラサワを引き合いに出し、ほこ先をかわそうとします。
「シラサワマリ・・・人生最大の強敵だわ」と嘆息をもらす真子さんに、<いやいや、ぜんぜん、全くもって相手にもならないでしょう>とマナミさんは内心ほくそ笑みます。
「ともかく、作戦的にはシラサワを抱き込んだほうがいいわね」と真子さん。
「なに、なにか、やるんですか」また何かよからぬことを考えているにちがいない、とマナミさんは真子さんに聞きます。
「やっぱ味方につけて、シラサワのサイキックを利用したほうがいいかもね」真子さんは不敵な笑みを浮かべます。
「それじゃ、これから本題ね。次の恋活イベントなんだけど」
「え~、先輩、まだやるんですか。私もういいですよ。相手見つかったし」
「バカね、あんたは。どうせまたフラれるにきまってるんだから控えの男子もいるでしょ」
「さすが、先輩。世慣れているというか、熊と戦っただけのことはありますね」その話はワンゲル部の伝説となっていました。
「あのね~、熊とまともに戦って勝てるわけないでしょ。添い寝してあげただけよ」
「ひえ~、熊の横で寝たんですか」
< こいつはホントにルーピーだわ、喰われるだろ、そんなことしたら >という目で真子さんはマジマジとマナミさんを見つめます。
「ま、そんなことはどうでもいいからさ。次の恋活、次のイベント」
「この際、シラサワさんも誘って、男の見定めをやるというのはどうですか。どうせ、私と先輩じゃ男の良し悪しなんて皆目分かんないんだし」
「それそれ、100年に1回くらい、あんたも良いこというわね。それを考えていたのよ、私も。それじゃあ、シラサワを誘って次のイベントに行くとすっか。シラサワ、シラサワ、え~と、どこだっけ」真子さんはスマホにいれたシラサワの電話番号を探します。
「あんたと二人じゃ、心もとないしね、シラサワがいれば安心だわ」と真子さん。
満足げな顔であんみつのお代わりを頼みます。
あんみつを飲み込むようにペロリと平らげると、おもむろに真子さんはシラサワに電話をします。
「あ、シラワサさん、いらっしゃいました。熊坂でございます。ハンドルーネームの、ええ。今日はホントにお疲れ様でした。イベントのほうはいかがでしたでしょうか」
< イベント会社の回し者かよ。なんだ、その猫なで声は >とマナミさんはあきれます。
「え、わたしですか。ええ、まあ、先ほどすっかり気のあった男性とまたお会いしましょうといって別れたところです」
< ウソだろ、それ。ずっと私と一緒だったし。シラサワに、すでに見抜かれてるぞ。相手はものほんのサイキッカーだぞ >とマナミさん。
「ええ、今度また3人でいかがですか。恋活イベントにシラサワさんがいると心強いですし」
< オトコをとられるリスクもけっこう高いんだけどね >とマナミさん。
「あ、そうですか。いきますか。ありがとうございます。ところで、今日のイベントの参加者で私にピッタリの殿方はいらしたでしょうか」
< 殿方、BBAくせ~ >とマナミさん。
「え、いない。ひとりも。そうでございますか。そうなるとやっぱり次回になおさら期待ということでございますね。次回はガツンとやってやります。詳しい日程が決まりましたらまたご連絡いたします」
そういって、真子さんは電話を切るや、スマホをテーブルに放り投げるようにして、
「ケッ、誰ひとり合うやつはいね~と、なんて奴だあいつは」と憤りをあらわにします。
マナミさんは腹をかかげて笑いそうになりましたが、グッと押し殺し、
「先輩、オトコなんてそんなもんですよ。最近のオトコどもは、良いオンナを嗅ぎ分ける臭覚がないというか、全くもうどうしようもない」
それを聞いて真子さんは< お前の腹の中は全てお見通しだ >とでもいうような目でジッとマナミさんを見つめます。
「ともかく、シラサワはこっちに引き込んだから、問題はこれからどうやって男を狩るかだ」
男狩りに目をランランとさせた女闘士は極上あんみつをもう一杯とおかわりします。
それから、1週間ほどしてマナミさんのスマホに真子さんから電話がかかってきます。
「マナミちゃん、決まったわよ」
「なにがですか」
「なにがってあんた、オトコ狩りの結社のネーミングよ。男狩り隊ってどうよ」
「先輩、まんまじゃないですか。もしかして私もメンバーってことですか」
「当たり前でしょ。あんたと私とシラワサで、あとは適当にメンバー集まったら、入会金をごっそり取るとか」
「それって、ビジネスですか、けっこうアコギですね」
「恋活で良いオトコを探すだけじゃ面白くないから、女を泣かせるオトコをとっちめてやるとかね、けっこうやることあんのよ」
「先輩、私たち学生なんですから、もう少し、学業に専念しましょうよ。親が聞いたら泣きますよ」
「もう泣いてるよ。お前を生んだのが間違いだったって。今度、シラサワ呼んで、ミーティングやるからね。あんたも空けといてね」
有無もいわさぬ風圧が電話口から伝わってきます。
< 男狩り隊って、またベタな、ダサいし、真子先輩らしいわ >と、マナミさんは立ちくらみを覚えます。
マナミさんは、先日の恋活カフェで知り合った爽やかヒゲ多少濃い男子にはまだ、連絡もとらずそのままにしていました。やはり、こういう場合は男性のほうからのアプローチを待っていたほうがいいのかな、と思いました。
しかし、あのカフェでの恋活イベントから、1週間経ちますが、待てど暮らせど、あのヒゲがちょい濃かったかもしない爽やか男子からは、いっこうに何の連絡もありません。
「バカね、どうせまたフラれるにきまってるんだから控えの男子もいるでしょ」といっていた真子先輩の言葉がマナミさんの耳の奥でこだまします。
やっぱり、男狩り隊のメンバーに入って、恋活をやるべきなのか。そもそも真子先輩の恋活イベントにちょっと付き合う程度のことだったのですが、案外恋活も面白いかなとマナミさんも思い始めていました。
大学とはまた違う人々との出会いがそこにはあります。たい焼きをいかに日本の食文化に根付かせたらいいかということを初対面の人にも滔々と語ることができます。
マナミさんは、実は業務用のたい焼き器を買って、実家に置いています。休みの日には、実際にたい焼きを作り、嫌がる妹に無理やり食べさせ、あんことミックス粉の配分比や生地の焼き加減の研究に余念がありません。
父親はそれを横目に、いつ自分が妹の代わりをさせられるかと戦々恐々としています。母親は、マナミさんが結婚して旦那が失業した時、たい焼きを売って家計を助けることができるかも知れないと、たい焼き作りに精を出す娘の姿を虚ろに見ているだけで、とくになにか口出しするというわけでもありません。
マナミさんは、高校時代に付き合っていた同級生のみつる君と学校帰りによくたい焼きを買って食べたものでした。「美味しいね」とほほ笑むみつる君に、「私、将来たい焼き屋さんになろうかな」とマナミさんは口の回りをあんこだらけにしながら答えたものです。
みつる君とは、卒業後離れ離れになって、そのまま交際も途切れてしまいましたが、たい焼きを口にするたびに、みつる君との楽しかった日々がよみがえり、心がなごみました。
実は、先日の恋活イベントで出会った、ヒゲ多少濃いかも知れない爽やか体育系連絡がない男子はみつる君にどこか似ていました。
マナミさんは、おねえちゃん、もう食えね~と泣きを入れる妹を横目に、お父さんもどう、とたい焼きを勧めながら、真子先輩と男狩り隊をやってみようかとぼんやり考えていました。