1. 宿命の男狩り隊

「男狩り隊って、先輩、やっぱベタすぎるし、他の名前にしましょうよ」少し涙目で真子先輩に訴えるマナミさん。

先日の歩道橋の上での男狩り隊結成の雄叫びが早速Youtubeにあがり、それを見たワンゲル部の部員がやいのやいのと二人をはやし立てます。

「なに言ってんのよ。いいネーミングじゃない」とすかさず真子さんは返します。

昼下がりの、部員が出払ったワンゲル部の部室で今後の男狩り隊の展開を練ってた真子さんとマナミさん。

と、そこにワンゲル部の部員で女子が選ぶ最も抱かれたくない男№1のキシダくんがドアを開けて入ってきました。

マナミさんと目が合うや、「マナミちゃん、Youtubeみたよ」とキシダくんが嬉しそうに声をかけます。

「やだ~、私もう、お嫁さんにいけない」恥ずかし気に顔を赤らめるマナミさん。

そういうマナミさんをじっと見つめる真子さんは、<お前にはたこ焼きがあるだろ。いざとなったら、たこ焼きで身を立てろ>と心のうちでつぶやきます。

「なんですかね~。ボクなんか真子さんにいっとう最初に狩られそうで怖いな~」キモイという言葉はこの男のためにあるようなキシダくんが両手を頬に当て、「ムンクの叫び」のような顔を作って真子さんをちゃかします。

<こいつは、いっぺん沢登りの途中で突き落としてやろうか>と真子さん。<それとも、崖を登りきったところを背後から・・・>と、ひとしきり火曜サスペンス劇場に浸ります。

こうみえても真子さんはワンゲル部の部長でもあります。熊殺しの異名を持つ真子さんに男子部員たちは日々組み敷かれるといったていたらくです。

「恋活サークルやろうと思うんだけど、キシダ、あんたどう思う」と真子さん。

「よろしいんじゃないですか。そりゃ、もう。真子さんのおっしゃる通り、日本の少子化は止まりませんし、早いうちから、学生結婚というのも。なんでも世界的に人口削減を企てている結社なんかもあるといいますし」と知ったふうな口ぶりでキシダくんが答えます。

「それ、それ、私もそれ聞いたことあるよ。わざと不健康になるようにケムなんとかで水や空気を汚してるって」真子さんの山歩きで培った野生の感が冴えわたります。

隣で二人の会話をそれとなく聞いていたマナミさん。この先、本当にお嫁さんにいけなかったらたい焼きでやっぱ生活設計を立てようか、粉の仕入れ原価をできるだけ抑えて、私の魅力で客単価上げて、行列のできるたい焼き屋にして、たい焼き成金になったら良い男が釣れるかも、などと考えを巡らせます。

「マナミちゃん、お嫁さんにいけなかったら、ボクがマナミちゃんの旦那さんになってあげるからね」横でキシダくんがやに下がったスケベ顔でマナミさんに声をかけます。

<いつか色仕掛けで大菩薩峠の沢に誘って、トリカブトで一服盛ってやる>とマナミさんは無縁仏を頭に描きつつ、「キシダ先輩、それってセクハラですよ~」と切り返します。

「そうなの、そんなことないでしょ」と女子が決して関わりたくない男№1のキシダくんはヘラヘラ顔で全く聞く耳をもちません。


ちょうどその頃、白澤マリさんはというと、白金台のアパートの自室で、人物画を描いていました。

もっぱら本のカバーやらパンフレットのイラストを手掛けていますが、好きなことに没頭していると時間の経つのも忘れてしまいます。

ただ、エンパス体質のせいか、人物画に集中していると、あたかもそれが生きている人間かのようにホログラムとなって目の前に浮かんでくることがあります。

さらには、その人物の過去世のようなものまでうっすらと見えてくるのです。見たくない余計なものまで見えてしまう。この特異な能力がマリさんには時に苦痛でした。

夕暮れ時に歩道橋の上で、人の行き来をぼんやり眺めているとそうしたわずらわしさから解放されます。

この世とあの世が重なって同時に見えるマリさんにとって、眼下に広がる世界は人々の悲しみや喜び、幸不幸が渦巻く、ある意味予定調和の箱庭のような世界でした。

悲しみに沈んでいる人がいれば、喜び勇んでいる人もいる。不幸の極みにいる人がいれば、幸せの絶頂を味わっている人もいる。

あの中年の男性はあのサラリーマンと組めば事業がうまくいくはず・・・あの若い女性と3人連れで歩いているあの大学生たちの真ん中の人とを引き合わせれば幸せな家庭が築けるはず・・・借金で苦しんでいるあの年配の女性はあの角の店にいけばきっといい人に出会えて人生が開けるはず・・・。

良い縁ばかりでなく、その逆もありますが、<この世は誰の人生も帳尻が合うようにできている・・・>と、マリさんは夕暮れの空に、幸福のグリッドを思い描いていました。

先日の真子さんとマナミさんの男狩り隊の話はあまり気乗りはしなかったけれど、何か自身の力ではあらがえない、運命の誘い、のようなものを感じました。

その導きの先に、とても手ごわい深遠な闇が広がっていたとしても、それと対峙しなければならない、これも宿命かとマリさんは覚悟を決めていました。

2. 手始めの恋活合コン


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