4. 男狩り隊VS女子狩り隊

マナミさんたち男狩り隊のことはYoutubeでも10万回以上再生され、さらにはSNSで恋活サークルにして、そのいかついネーミングは何ぞやと面白おかしくリツイートされまくっていました。

「おもしろいじゃねえか。ちょっと遊んでやろうじゃねえか」女子狩り隊の名称を思いついた男子が吐き捨てるようにいいました。

港区のとあるタワーマンションに5人の男子大学生が集まり、ワインを片手にマナミさんたちの出ているYoutubeを見ながら談笑していました。

「誰が一番最初にあのオネエちゃんをものにするかゲームだ」「暇つぶしにちょうどいいや」「あの横にいるモデル体形の女はいけてるよな」「それにしてもガタイのいいあの女はなんなんだ」冷笑しながらYoutubeに食い入る5人、彼らのとげとげしい会話は2時間ほど続きました。

マナミさんが柿田くんと約束したデートの日まで1週間ほどありました。
<柿田くん、どんな服装や髪型が好みなのかな?>マナミさんはネットで流行りの洋服を検索したり、ブローを変えたり、ワンゲル部ですっかりたくましくなった二の腕や太ももを気にしながら、やっぱ集中エステかな~と揺れる日々を過ごしていました。

たい焼きの話ばかりしていて、柿田くんの趣味や好みを何も聞かなかったことを少しばかり後悔していました。

「まあね、男だからね、スケスケの露出でいこか、いや、あんたのがっつりした太ももみた日には男はどん引きするから、シルエットがでない、ゆったり系かな~」電話口で真子さんがねむたげにアドバイスします。

やっぱ、ファッションやら化粧のことを真子先輩に聞くのは間違っていたとマナミさんは後悔し、<そうそう、マリさん、マリさんがいるじゃない>とラインをします。

30分ほど経って、マリさんから返信がありました。

「気をつけて。今はそれしか言えない、とにかく気をつけて」
返ってきたのは切迫した意味深な内容でした。<なに、何なの、何のこと?私に何かあるの・・・>浮かれ気分がスーと消えてしまいました。<あの、マリさんのいうことだから・・・>マナミさんは小さな震えを覚えました。

確かにマリさんのいう通り、ここ数日、マナミさんは周囲に不穏な気配を感じていました。

学校帰りの夕暮れ時、誰かに尾行されているという思いにとらわれることがありました。後ろを振り返っても、とくに怪しげな人間がいるわけでもない、それでも、常に誰かに後をつけられ監視されているような感覚が走りました。

そして、柿田くんとのデートの日。

約束した渋谷のカフェに時間通りに着いたマナミさん。窓際の席で柿田くんがカップに口をつけていました。淡い日の光に包まれた柿田くんが笑みを浮かべながら軽く手を挙げています。

「やあ、元気にしてました」と柿田くん。ライトグリーンのシャツにジーンズという軽装でさわやかさが一層映えます。「ええ」とマナミさんは微笑みながら答えます。

初夏の淡い光の中、窓の外の木々の葉が優しく揺れていました。

「天気がいいから、外のテラスに移りましょうか」と柿田くん。テーブルにつくと「面白そうなたい焼き屋さん、見つけてくださってありがとう」と前のめりのマナミさん。

「ほんとにたい焼きが好きなんですね。最初は冗談かと思っていましたけど」

「ええ、みんなからそういわれます。たい焼きにはいい思い出があって」

「へえ~、どんな思い出ですか」

そう聞かれて、マナミさんは少しためらいました。元カレのみつる君とのなれそめ話を柿田くんが聞きたいはずがありません。

「そんな、たいした思い出じゃありません」と言い、「毎日、Youtubeでたい焼きの動画を見るのが楽しくって」と話題を変えようとします。が、そう言ったはなから、<あ、しまった。柿田くんに、この前の歩道橋のYoutubu動画を見られちゃうかも>とマナミさんはあせりまくります。

「Youtubeはほとんど見ないですね。なんか面白いコンテンツありますか。僕は毎日NETFLIXやアマプラばかり見てます」

「あ、そうなんだ」と安堵するマナミさん。ともあれ、柿田くんがYoutubeを見ないというのはマナミさんには朗報でした。


小一時間ほど渋谷のカフェで軽いおしゃべりをした後、二人はたい焼き屋さん巡りに出かけました。

最初に、柿田くんの添付画像にあった日暮里のたい焼き屋さんに行き、次に北千住の名物たい焼き屋さんに寄り、その後、日本橋に行って、二人は軽い昼食をとりました。

「けっこうたい焼き食べましたね。もう半年くらい食べなくても平気かな」と柿田くんが言うと、「こんなの、まだまだ序の口ですよ」とマナミさんが笑いながら制します。

それから、二人は銀座に出て、オープンカフェで休憩し、あと1、2件廻るかどうか、予定を練りました。

次第に日が落ち、外気が寒々としたものに変わりつつあります。空模様も少しあやしくなってきています。柿田くんが気をきかして、「コンビニ行って傘を買ってくるね。すぐに戻るから」と席を立ちました。

それから10分ほど経過しました。が、柿田くんはまだ帰ってきません。

<コンビニ屋さん、見つからなかったのかしら>マナミさんが目の前のビルのネオンの流れをぼんやりと追っていると、「今、時間ある」と背後から誰かが声をかけてきました。

振り返ると、3人の男子が立っていました。どことなく品のある若者たちで、やくざのチンピラといった風情ではありません。その中の髪を金髪に染めた男子が、ここに座っていいですか、といって強引にマナミさんの隣のイスに腰かけてきました。

<なに、なんなの、この人達、もしかしてナンパ目的なの>マナミさんは思わず席を離れようとしました。

すると、「やだな~、なんもしませんよ。どうしていっちゃうの」といって金髪の男子が絡んできました。若者はマナミさんの手をつかみ、「ほんとになんもしないからさ~」と言って強い力でマナミさんを引き戻そうとします。

マナミさんは恐怖から若者の手を振り払い、その場から立ち去ろうとしました。が、<もし、ここを離れたら>と一瞬、柿田くんのことが頭をよぎりました。

そうした矢先のことでした。遠くから柿田くんが、ごめん、ごめん、と言って息を切らせながら駆けてきました。

3人の若者に囲まれ、涙目で棒立ちになっているマナミさんを見て、柿田くんはすぐに事情を察しました。

「なんだよ。君たち。何をしてんだよ」と怒る柿田くん。「なんもしてねーよ。うるせえんだよ」険のある若者たちの物言いに柿田くんは憤慨し、3人との小ぜり合いが始まりました。

若者たちも興奮して後に引きません。「やめて、柿田くん。なんでもないの。やめてお願いだから」マナミさんが中に入り懸命に止めようとしましたが、柿田くんはマナミさんの手を払い、金髪の若者の胸ぐらをつかむや、頬に強烈なパンチをくらわせました。

4人はそのままからみ合い、乱闘になりました。3人は、柿田くんの髪をつかみ、顔を地面に抑えつけ、容赦のない蹴りを浴びせました。大勢を相手に柿田くんが勝てるはずがありません。

店の前は人だかりで大騒ぎです。そのうち誰かの通報で、パトカーが駆けつけ、ようやく乱闘が収まりました。


5. 運命の人


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