3. 因縁の相手
恋活合コンの間、一人の男子にずっとマリさんの視線が注がれていました。マリさんが見つめる男子の視線の先にはマナミさんの快活にふるまう姿がありました。
その男子はマナミさんと同学年で、「柿田」と名乗っていました。背が高く色白で、ハーフのような日本人離れした顔立ちです。さりげないジョークや気転のきいた会話が頭の良さを物語っています。
柿田くんもマリさんの視線には当然気づいていました。もしかしたら自分に気があるのかもしれないと勘違いしていたかも知れません。
マナミさんは屈託のない笑顔で例のごとくたい焼きの話をして盛り上がっています。マナミさんも柿田くんにまんざらではないようです。
「今度、おいしいたい焼き屋さん巡りをしましょう。僕がエスコートしますよ。マナミさんが食べ過ぎてデブらないようにね」「私、1日100食いけま~す」とアホくさい会話で、二人は意気投合し、すっかり打ちとけている様子です。
なにはともあれ、男狩り隊主催の記念すべき第一回恋活合コンを無事に終え、真子さんもマナミさんも一安心です。今日は、100点満点のまあ95点くらいかな、と真子さんはご満悦です。
「次は合コンじゃなくてパーティだね、100人くらい集めて恋活パーティ開いて。パーティー券は企業から協賛金2万円くらいとって、ごっそり裏金ためて、おフランスいくべ」と真子さん。
「いくべって。先輩、夏山はどうすんですか」と心配げに聞くマナミさんに、
「あんたはキシダと天城越えでもしてなさい」と真子さんの勢いは止まりません。
「先輩、気が早いですよ。まだまだ先は長いんですからね」とマナミさんは女闘士をいさめます。好事魔多し、という言葉がマナミさんの頭に浮かびます。あまり、調子に乗っていると足元をすくわれかねません。
マナミさんは真子さんと別れ、自宅へと向かう道すがら、合コンで出会った高身長色白ハーフでもしかしたらお金持ちかもしれない柿田くんのことを、付き合ってみようかな、でも自分からコクるのもどうかな、彼は女子にモテそうだし、といろいろとあらぬことを詮索します。
<でも、5人の中じゃあ、一番たい焼きのことに興味持ってくれた・・>マナミさんの男選びの優先順位のトップには常にたい焼きがありました。これだけはどうしても外せません。
高校時代、マナミさんのクラスでの成績は悪いほうではありませんでしたが、なぜか学校の授業には全く興味がわきませんでした。仕方なく、やみくもに丸暗記でやりすごすといった日々で、心はいつも空虚でした。
マナミさんの学校への登校の道すがらに、たい焼き屋さんがありました。雲間から強い光が差し込む、とても空気の澄んだ日のことでした。マナミさんはその日のことを今でもよく覚えています。
なにげなく、たい焼き屋さんの前に立ち、勢いよく空に飛び跳ねるようなたい焼きの看板を眺めながら、青い空と白い雲のはざまを泳ぎ回る自分の姿を想像していました。すると、なぜか天上からスーと一条の光が差し込み、心の闇が晴れていくような気がしたのです。
しばらく、そこにボ~とたたずんでいると、「これ、食べる」といって背後から声をかける人がいました。
振り向くと、同じクラスのみつる君で、たい焼きを手に気恥ずかしげに立っていました。
みつる君はニキビぶつぶつのじゃがいも顔で、女子にモテるといったタイプではありません。が、なぜかその時は、みつる君が心の中のぽっかりと澄みきった空間にスーと入ってきたのです。
みつる君は家があまり裕福でなく、新聞配達をしながら学校に通っていました。そんな一生懸命なところにも魅かれたのかも知れません。マナミさんから告白し、二人は付き合うようになりました。
当然、その日から、マナミさんのカラオケの定番は、「毎日、毎日僕らは鉄板の~」という子門真人の「およげ!たいやきくん」です。
みつる君とは中学の時から一緒でしたから、マナミさんは彼のことはよく知っているつもりでいました。
しかし、実際に付き合ってみると、みつる君は辛辣な言葉で、マナミさんのわがままな性格やルーズなところを手厳しく指摘しました。
そのことで、マナミさんはよく腹立ち傷ついたものです。何度もケンカしそうになりました。結局、会うたびにそんなことが重なるものですから、次第に二人の心は離れていきました。
高校を卒業すると、マナミさんは大学へ、みつる君は工業系の専門学校へと進み、その後、二人は二度と会うことはありませんでした。
マナミさんはみつる君の言っていたことを時々思い出すことがあります。ホントに好きだった人の心からの助言・・・あの時は私も辛かったけど、みつる君はもっと辛かったにちがいない。
晴れた日に、たい焼きのような雲が目にとまると、マナミさんは高校時代のみつる君のことをよく思い浮かべたものです。
合コンから3日ほど経った日。
マナミさんのスマホに柿田くんからラインがきていました。「面白そうなたい焼き屋さん、見つけましたよ。今度いかがですか」日暮里にあるという、そのたい焼き屋さんの画像も添付されていました。
すぐさま、「いいですね。面白そう」とマナミさんは返しました。「他にも2,3件ありますから、今度の日曜日一緒にたい焼き屋さん巡りいかがですか」と柿田くんからのデートの誘いです。
そういわれて、いかないと断る理由もありません。感じの良い好青年という印象の柿田くん、<会話もスマートだし、一緒に過ごすときっと楽しいに違いない、デートしてみようかな>とマナミさん。
翌日、「先輩、柿田さんとお付き合いしてみようかなって思うんだけど」とマナミさんは真子さんに電話しました。
「おめでとう、早速、第一号決まりー! となると成約金もらうよ」と電話口で跳ねるような真子さんの声。
「え~、お金とるんですか。詐欺じゃないですか、それ」
「良い男をチョイスするのも大変なんだからね。男狩り隊の運営資金よ、運営資金。それに白澤も初回からもうぐったりしてるし。慰労金でも出さなきゃね」
マナミさんもそのことが少し気になっていました。「もう降りる」とマリさんが言いだしたらどうしよう。真子先輩にちゃんとした縁組みができるかどうか、不安がつのります。
<船出したばかりの恋活サークルなのに、すぐに頓挫というのも情けない>ここはやはりまず自らが先陣を切って、柿田くんとみごと男狩り隊第一号のベストカップルになってやろうかとマナミさん。「わかりました、先輩、もう後には引けない。やるっきゃない」と意気込みます。
マナミさんの奮起は真子さんにも十分伝わり、「男狩り隊に栄光あれ!」と士気を高め合う二人。「政治家抱き込んで、ゆくゆくは私が少子化担当大臣やるべ」「先輩、日本中のいいオトコゲットー」と二人はキャアキャアと調子に乗ってうかれまくります。
が、この時すでに、男狩り隊の先行きに暗雲が立ち込め始めていることを彼女たちは当然知るはずもありません。あるサークルが男子大学生たちによって都内某所で結成されていたのです。
その名も「女子狩り隊」。
恋活とは無縁、むしろその真逆の、邪悪な意図で結成されたサークルです。しかも、そのターゲットは真子さんたち男狩り隊のメンバーでした。
4. 男狩り隊VS女子狩り隊
その男子はマナミさんと同学年で、「柿田」と名乗っていました。背が高く色白で、ハーフのような日本人離れした顔立ちです。さりげないジョークや気転のきいた会話が頭の良さを物語っています。
柿田くんもマリさんの視線には当然気づいていました。もしかしたら自分に気があるのかもしれないと勘違いしていたかも知れません。
マナミさんは屈託のない笑顔で例のごとくたい焼きの話をして盛り上がっています。マナミさんも柿田くんにまんざらではないようです。
「今度、おいしいたい焼き屋さん巡りをしましょう。僕がエスコートしますよ。マナミさんが食べ過ぎてデブらないようにね」「私、1日100食いけま~す」とアホくさい会話で、二人は意気投合し、すっかり打ちとけている様子です。
なにはともあれ、男狩り隊主催の記念すべき第一回恋活合コンを無事に終え、真子さんもマナミさんも一安心です。今日は、100点満点のまあ95点くらいかな、と真子さんはご満悦です。
「次は合コンじゃなくてパーティだね、100人くらい集めて恋活パーティ開いて。パーティー券は企業から協賛金2万円くらいとって、ごっそり裏金ためて、おフランスいくべ」と真子さん。
「いくべって。先輩、夏山はどうすんですか」と心配げに聞くマナミさんに、
「あんたはキシダと天城越えでもしてなさい」と真子さんの勢いは止まりません。
「先輩、気が早いですよ。まだまだ先は長いんですからね」とマナミさんは女闘士をいさめます。好事魔多し、という言葉がマナミさんの頭に浮かびます。あまり、調子に乗っていると足元をすくわれかねません。
マナミさんは真子さんと別れ、自宅へと向かう道すがら、合コンで出会った高身長色白ハーフでもしかしたらお金持ちかもしれない柿田くんのことを、付き合ってみようかな、でも自分からコクるのもどうかな、彼は女子にモテそうだし、といろいろとあらぬことを詮索します。
<でも、5人の中じゃあ、一番たい焼きのことに興味持ってくれた・・>マナミさんの男選びの優先順位のトップには常にたい焼きがありました。これだけはどうしても外せません。
高校時代、マナミさんのクラスでの成績は悪いほうではありませんでしたが、なぜか学校の授業には全く興味がわきませんでした。仕方なく、やみくもに丸暗記でやりすごすといった日々で、心はいつも空虚でした。
マナミさんの学校への登校の道すがらに、たい焼き屋さんがありました。雲間から強い光が差し込む、とても空気の澄んだ日のことでした。マナミさんはその日のことを今でもよく覚えています。
なにげなく、たい焼き屋さんの前に立ち、勢いよく空に飛び跳ねるようなたい焼きの看板を眺めながら、青い空と白い雲のはざまを泳ぎ回る自分の姿を想像していました。すると、なぜか天上からスーと一条の光が差し込み、心の闇が晴れていくような気がしたのです。
しばらく、そこにボ~とたたずんでいると、「これ、食べる」といって背後から声をかける人がいました。
振り向くと、同じクラスのみつる君で、たい焼きを手に気恥ずかしげに立っていました。
みつる君はニキビぶつぶつのじゃがいも顔で、女子にモテるといったタイプではありません。が、なぜかその時は、みつる君が心の中のぽっかりと澄みきった空間にスーと入ってきたのです。
みつる君は家があまり裕福でなく、新聞配達をしながら学校に通っていました。そんな一生懸命なところにも魅かれたのかも知れません。マナミさんから告白し、二人は付き合うようになりました。
当然、その日から、マナミさんのカラオケの定番は、「毎日、毎日僕らは鉄板の~」という子門真人の「およげ!たいやきくん」です。
みつる君とは中学の時から一緒でしたから、マナミさんは彼のことはよく知っているつもりでいました。
しかし、実際に付き合ってみると、みつる君は辛辣な言葉で、マナミさんのわがままな性格やルーズなところを手厳しく指摘しました。
そのことで、マナミさんはよく腹立ち傷ついたものです。何度もケンカしそうになりました。結局、会うたびにそんなことが重なるものですから、次第に二人の心は離れていきました。
高校を卒業すると、マナミさんは大学へ、みつる君は工業系の専門学校へと進み、その後、二人は二度と会うことはありませんでした。
マナミさんはみつる君の言っていたことを時々思い出すことがあります。ホントに好きだった人の心からの助言・・・あの時は私も辛かったけど、みつる君はもっと辛かったにちがいない。
晴れた日に、たい焼きのような雲が目にとまると、マナミさんは高校時代のみつる君のことをよく思い浮かべたものです。
合コンから3日ほど経った日。
マナミさんのスマホに柿田くんからラインがきていました。「面白そうなたい焼き屋さん、見つけましたよ。今度いかがですか」日暮里にあるという、そのたい焼き屋さんの画像も添付されていました。
すぐさま、「いいですね。面白そう」とマナミさんは返しました。「他にも2,3件ありますから、今度の日曜日一緒にたい焼き屋さん巡りいかがですか」と柿田くんからのデートの誘いです。
そういわれて、いかないと断る理由もありません。感じの良い好青年という印象の柿田くん、<会話もスマートだし、一緒に過ごすときっと楽しいに違いない、デートしてみようかな>とマナミさん。
翌日、「先輩、柿田さんとお付き合いしてみようかなって思うんだけど」とマナミさんは真子さんに電話しました。
「おめでとう、早速、第一号決まりー! となると成約金もらうよ」と電話口で跳ねるような真子さんの声。
「え~、お金とるんですか。詐欺じゃないですか、それ」
「良い男をチョイスするのも大変なんだからね。男狩り隊の運営資金よ、運営資金。それに白澤も初回からもうぐったりしてるし。慰労金でも出さなきゃね」
マナミさんもそのことが少し気になっていました。「もう降りる」とマリさんが言いだしたらどうしよう。真子先輩にちゃんとした縁組みができるかどうか、不安がつのります。
<船出したばかりの恋活サークルなのに、すぐに頓挫というのも情けない>ここはやはりまず自らが先陣を切って、柿田くんとみごと男狩り隊第一号のベストカップルになってやろうかとマナミさん。「わかりました、先輩、もう後には引けない。やるっきゃない」と意気込みます。
マナミさんの奮起は真子さんにも十分伝わり、「男狩り隊に栄光あれ!」と士気を高め合う二人。「政治家抱き込んで、ゆくゆくは私が少子化担当大臣やるべ」「先輩、日本中のいいオトコゲットー」と二人はキャアキャアと調子に乗ってうかれまくります。
が、この時すでに、男狩り隊の先行きに暗雲が立ち込め始めていることを彼女たちは当然知るはずもありません。あるサークルが男子大学生たちによって都内某所で結成されていたのです。
その名も「女子狩り隊」。
恋活とは無縁、むしろその真逆の、邪悪な意図で結成されたサークルです。しかも、そのターゲットは真子さんたち男狩り隊のメンバーでした。