2. 手始めの恋活合コン

場所が変わって、ここはいつも真子さんとマナミさんが入り浸っている極上あんみつ屋さんです。

店主によると、店を立ち上げた時、「極上あんみつ、一度食べたらあんた一生病みつきよ」という景表法に引っ掛かりそうな屋号を考えていたそうです。

真子さんとマナミさんは店主の思惑通り、何かにとり憑かれたかのように日々せっせと通い詰め、その合間に大学の授業に出ています。

「先輩、夏山の計画立てないで、恋活ばっかやってていいんですか」マナミさんが心配げに真子さんにたずねます。

「いいのよ、あんた。どうせ男どもは乗鞍岳のてっぺんから蹴落としてやりたいような奴ばっかりなんだから」と真子さん。

「それで、まずは手始めに合コンのようなものをやるか」と真子さんは提案します。

「私とあんた、それから白澤、あとワンゲルの女子2人誘って、5人組ということで。相手の大学生は、どこでもいいからとにかく金持ちの美形男子を調達してきて」と勝手なことを真子さんはまくしたてます。

「先輩、セレブねえさんの言ってたこと、忘れたんですか?お金や外見じゃないでしょ」とマナミさん。とは言いつつ、高身長でたい焼きに興味を持ってくれる王子様が頭の隅でうろつきます。

そんな、ああでもない、こうでもないという話を小一時間ほど、店主もあきれるほどの大声でまくしたてる2人でしたが、なんとか男狩り隊の活動の年間計画もまとまり、早速、手始めに恋活合コンということになりました。

場所は都内某所の閑静な住宅街にある個室カフェです。ワイワイガヤガヤどさくさにまぎれて尻を触られるといった大衆居酒屋ではありませんから、そこだと白澤のサイキックもいかんなく発揮されるだろうとふんだのです。

ひとしきり、男狩り隊の今後の方針を披露したところで、「真子ちゃん、良いオトコが見つかるといいね」と、極上あんみつ、一度食べたら生涯病みつきの店主が威勢よく声をかけます。

「おっちゃん、極上あんみつに辛子こんにゃくトッピングでもう一杯」と真子さん。すでに戦闘モードです。


それから2週間後の日曜日。

待ちに待った、男狩り隊の初回恋活合コンの開催日です。男狩り隊から、当初予定していた5人のメンバー、相手方はSNSで募集をかけていた都内の大学に通う男子5人が集まりました。

男子といっても、真子さんの希望に叶うような、金持ち高身長というわけではありません。以前趣味コンで出会った男子たちと似たり寄ったりといったところです。

ただ一人、これは、と思うようなイケメン男子も混じっていて、ワンゲルの2人の女子はきっと目を輝かせて食らいつくだろうな、といったふうです。

男狩り隊ではこうした恋活合コンを3カ月に1回計画していますが、そこいらでやっているような合コンとは少し訳が違います。というのも白澤マリの存在です。

実は、この恋活合コンは真子さんでもマナミさんでもなく、マリさんが主役、白澤がいての合コンなのです。さらには、白澤あっての男狩り隊であることを、真子さんもマナミさんも後々痛いほど知らされることになります。

マリさんは合コンの開始直前に「遅れてすみません」と言って頭を下げ、カフェに入ってきました。男たちの目は、桜色のクロスシャーリング長袖に黒のスキニーパンツ、漆黒のセミロングに小顔8等身、非の打ち所のないスレンダー+クール&スタイリッシュのマリさんにもう釘付けです。

もちろん、真子さんもマナミさんも男どもの関心がマリさんに一身に集まるであろうことは先刻承知です。

それぞれが席に着いたところで、「え~、本日は恋活サークル・男狩り隊の記念すべき第1回恋活合コンでございます。大変お日柄もよく、大安に一粒万倍日に大金運の寅の日と重なりまくり、もう何もいうことがございません。皆様におかれましてはますますのご発展を祝しまして、まずは乾杯といきましょう」と真子さんが開催の音頭をとります。

と、その時、神妙な面持ちでマナミさんの横に座っていたマリさんが小さく「ウッ」と声をもらし、苦しげに口元に手を当て、「失礼」と言って、トイレに立ちます。

あら、何かしらと真子さんは慌て、「こんな時に、つわり、かしら」と心配げにマナミさんの耳元でささやきます。<つわりになるような人がこんなところに来るかい>とあきれるマナミさん。

もしかしたら、amazonで買った、男を誘うフェロモン香水がちょっと強すぎたかしらと真子さんは鼻をもぞもぞさせます。

男子の1人が「彼女、モデルさんですか。すごいキレイな人ですよね。気分が悪いみたいですけど、大丈夫ですかね」と気づかうので、「もしかしたらおめでたかも知れませんわね。おホホ」と目をほそめる真子さん。マリさんがいないことをいいことに、白澤には既に付き合ってる彼氏がいるかもよと暗に匂わせ、男たちに牽制をかけます。

トイレでマリさんはやはり今日の合コンには参加するべきじゃなかったと後悔していました。見たくないものが見えてしまったのです。

どうすればいいの。マリさんは自問自答し、目に映った悲惨な光景、カルマというべき因縁の解消策を探りました。

マリさんが恋活メンバーたちで賑わう個室に戻ると、ワンゲルの女子たちは和気あいあいで男子5人と談笑していました。彼らの誰もが、まさかマリさんに過去世まで全て見透かされていることなど知るはずもありません。

彼らの会話を遠ざけるかのように、マリさんは時にぐったりとして目を閉じ、壁にもたれかけるようにしていました。


3. 因縁の相手


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