Another Sea Story
――その日、学校を終えた正夫は昨夜の夢に出てきた海岸をまるで夢の続きでも追いかけるかのように、うつろな足どりで歩いた。
まだ、肌寒い陽気だというのに、5月の波静かな海でピンクやグリーンの蛍光色のウエットスーツに身をつつんだ若者たちがウインドサーフィンを楽しんでいる。
バカマサ、テイノウ!どこからかそんな声が風にのって正夫の耳に届いた。かん高い、調子外れのとげのある声だ。
振り向いて声の出どころを、正夫は探った。国道を連れ立って歩いている同じ小学校の生徒たちが4,5人かたまりになって、おおげさな身振りでふざけ、はやしたてている。
少年たちに取り合わず、うつむいたまま黙々と、正夫は砂浜を歩き続けた。彼等にバカにされるのはもう慣れっこになっている。正夫が知らんぷりをしていると、少年たちはさらに声を束ねた。
正夫はくやしくて仕方なかったが、一人で大勢に立ち向かっても勝ち目がないとあきらめ、ランドセルを背負いなおして砂浜を小走りで駆けた。
背中ごしに少年たちの高笑いが波のように追いかけてきた。
( とうちゃん… とうちゃん… )
正夫は半分ベソをかきながら、毎年夏になると父親のたくましい肩にのせられ、花火大会を見物した海辺を砂に足をとられながら走った。
いつも学校からイジメられて帰ると、男なんだから泣いちゃあだめだと言って、父親の正吉は正夫のぼうず頭に大きなぶあつい大工の手をのせて、励ました。知恵遅れの正夫をことのほか正吉は可愛がった。
頑固ではあるが、正直者で、誰からも好かれた正吉のやさしい光をたたえたまなざしを正夫は今でもよく覚えている。
たまに酒が入ると乱暴に騒いで手に負えないこともあったが、それでも正夫は男気のある正吉が大好きだった。
およそ1年前のことだ。正夫をこよなく愛した正吉が交通事故で他界し、一晩中正夫が泣き明かしたのは。
( とうちゃん… とうちゃん… )
正夫はうるんだ目から涙がにじみ出てくるのをおさえながら砂浜を駆け抜けた。