そして、いつかの海に

Another Sea Story

結城直矢

小さな白光が闇夜を駆け登っていく。

またたく間に光の点は、小気味よくパチパチとはじけ、ふくらみをもちながら、まばゆい赤や緑や青の光の水滴となって暗闇に勢いよく飛び散っていった。

さらに片方でそれに勝るとも劣らぬ光の輪がドーンという快音とともに夏の夜空を派手に色づけ、光の花弁をしたたらせた。 一瞬にして無地の夜空は華やかな光の乱舞でひび割れた。

正夫は安定感のある父親の肩を股の下に感じながら、背をのばし、口をだらしなく半開きにして、目の前で開花する光の花園を見入った。

いつ終わるともなく、頻繁に闇夜を一直線に突き抜けて花火は打ち上げられ、そのたびに正夫の瞳は艶やかな玉虫色ににじんだ。

とうちゃん、とうちゃん、ほら、すごいよ、とうちゃん、あれ。正夫ははしゃいで父親の額に両手でしがみつき、興奮した。そんなに暴れるな。笑いながらそう言って父親が股の下から声をかけてきたような気がする。

それでも、夜空を色どる光の競演がまぶしく目に飛び込んでくるたびに正夫は驚かずにはいられなかった。

その興奮の光がしぼみ始めた頃、父親は正夫の手をとり、ざわめきの間をぬって浜辺を歩いた。 行き先はもうわかっている。正夫の喉の奥で赤いシロップのひんやりとした甘みがひろがった。

どうだ、正夫、うまいか。海の家でそう言って父親は目尻にシワを作った。口紅を塗ったように口の回りを赤々とさせて、正夫は元気よく、うんとうなずく。そんな正夫を見て、父親は陽に焼けた浅黒い顔を満足げにゆるませた……。

――その夢を見ると、きまって正夫は朝方、股のあたりに湿った生温かい感触を覚える。

その日も、例外ではなかった。また、かあちゃんにしかられる。目が覚めると、正夫はとっさにそう思った。

正夫の夜尿症のためにと、母親の初江が敷布と敷き布団の間に入れていたビニールシートは漏れた尿でふやけている。

夢の中で、1年前に交通事故で亡くなった父親に会えるのはうれしかったが、そのあとで、いつも正夫はうっとうしい思いをしなければならなかった。

今日は何回尻を叩かれるかな?……たぶん、朝の食事の時にだんまりをきめこむであろう初江の姿を正夫は思い浮かべた。

ひょっこり、布団から顔を出して、壁にかかった時計を見る。もう少し寝てても大丈夫かな……。正夫はまどろみの中につかの間の救いを求めた。

TOP > 2. その日、学校を終えた正夫は・・・

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